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『9月入学・新学期論』に対する文科省の考えと『教員の定額働かせ問題』の行方

第24回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員を縛る魔法の言葉

 収束の兆しが見えない中での学校再開は、それだけのリスクを覚悟しなければならない。それは、萩生田文科相も認識している。学校再開の方針を示した30日の参院予算委員会でも、「いろいろな工夫が考えられる」と述べ、教室内で児童生徒の3密(密集、密閉、密接)を回避するため、クラスを複数のグループに分けて登校する分散登校などを求めている。
1クラスを複数のグループに分けて授業をするとなれば、当然ながら教員も教室も足りなくなる。だから、前述したように卒業・進学を控えた小6や中3を優先するというわけだ。全学年ではなく1学年だけならば、「数」の問題は何とかなるかもしれない。しかし、質的な問題はどうなのか。1年生の担任が、いきなり6年生の授業をスムーズにこなせるのだろうか。そして、小6と中3以外の学年が取り残されることにならないだろうか。

 「そこは現場の努力でなんとかしろ」と言われるかもしれないが、分散登校・分散授業によって解決できるとは思えない。

 すでに、夏休み返上の動きも顕著になっている。4月29日の『読売新聞オンライン』は、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、全国の小中高校が休校を余儀なくされるなか、全国121自治体の半数を超える63自治体が、『夏休み短縮』で学習の遅れを取り戻すことを検討していることが読売新聞の調査で明らかになった」と伝えている。子どもたちは、「夏休みのない夏」を経験することになるのだ。
しかし、夏休みを返上しても、はたして学習の遅れを取り戻すことはできるのだろうか。それを楽観視できる教員は少数派に違いない。真夏の授業となればエアコンを使う必要があるだろうが、全ての学校に設置されているわけではないし「密閉」の問題も残る。

 教員の負担も増加する。分散授業となれば担当授業は増えるだろうし、準備にも多くの労力と時間を割かなければならない。不規則な授業と厳しい環境のなかで、児童・生徒の精神面、肉体面の配慮にも気が抜けないはずだ。
そんな情勢において、改正給特法に盛り込まれた「原則月45時間、年360時間」の残業時間の上限は、はたして本当に守られるのだろうか。

 「緊急事態だし、何より子どものためだから」
こんなことを言われては、大半の教員は「働かせ放題」を受け入れるしかないだろう。過重労働を訴える教員に「なぜ受け入れるのか?」と質問すると「子どものためと言われたら断れない」との答えが必ず返ってくる。

 「子どものため」は、不当に教員を働かせる「魔法の言葉」なのだ。

 緊急事態宣言が延長されるなかでの学校再開、そして休校中の授業の遅れを取り戻すために、この魔法の言葉が学校現場では飛び交うのだろう。そして、それによって教員たちは、さらにしばられていくことになる。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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